:: 05風景白馬八方尾根
おそらく、白馬鑓ガ岳だと思います。
山の上の雲に引き寄せられるように、
谷からの雲がまるで、ゴーゴーと音を立ているかのごとく、湧き上がっていました。
雪や岩がいつも滑っているのでしょう、
縦に筋の入った美しい斜面の向こうは谷。
そこまで雲は迫っていました。
すぐにその斜面を覆い尽くしてしまいました。
何もかもを覆いつくしていた雲が一瞬の隙を見せた。
わずかに見えた向こうの峰は美しく輝いていた。
何故かこの世の様子ではないと感じた。
おそらく雨の一粒さえ真っ二つに切り裂いてしまうだろう。
そんな鋭峻な岩峰が雲を割っていた。
負けた雲は霧散して行った。
8月も半ばになろうというのにまだこんなに残雪がありました。
あの下では春を待つ植物が眠っているのだろうか。
ふとそんなたわいも無い思いを抱いた。
雲は今、そこで湧き、山を昇ろうとしていた。
上の雲が母親だろうか。
山肌に手をかけながら、ゆらゆらと昇っていった。
この日は雲の動きがめまぐるしかった。
しかし、この一瞬時を止めたように雲は動かなかった。
まるで何かを待っているように。
そして、昇った雲が下り始めた。
ゆっくりと山肌にへばりつくようにして下って行く。
いや、下るというよりは沈んでいくと言ったほうが正確かもしれない。
雨になるかと思ったほどの雲が突然晴れていった。
なんとも変わり身の早い雲だった。青空がまぶしい。
でも、これも一時のこと、またすぐに・・・・・。
明らかにその日の雲は山と遊んでいた。
結局、白馬鑓ガ岳までは見えたけれど、白馬本体は姿を見せてくれなかった。
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